ハイパービットコイン化 (全世界的なBitcoinの普及) を実現するには、階層的なアプローチによるスケーリングが必要という合意がほぼ形成された今、議論の焦点はスケーリングに最適なレイヤー2ソリューションは一体どれなのかに移っています。しかし、複数のレイヤー2プロトコルが提案、実装、利用される中で、あらゆるニーズを満たす万能なものは存在しないので、ユースケースや市場に合わせて最適なプロトコルを選んで使うことが現実的という見方が広がってきました。.
今回のレイヤー2レポートは、いくつかのレイヤー2プロトコルに焦点を当て、それらの相互運用性 (またはその欠如) と、それらを使ったビットコインの普及を促すプロダクトについて詳しく見ていきます。他にも、5月に高騰した送金手数料に関連して、ビットコインがこれまでに乗り越えてきた「成長痛」についても考察します。
適材適所というアプローチ
各レイヤー2プロトコルは、ビットコインブロックチェーンの制約 (処理可能なトランザクション数、プライバシー、アセット発行機能の欠如など) のうち、いくつかを解決・軽減することを目的に設計されています。例えば、少額のビットコインを早く安く友だちに届けたい場合、ライトニングネットワークが最適解でしょう。金融機関が債券やデジタル証券を発行したい場合はLiquidが適しています。
各レイヤー2プロトコルには、異なるトレードオフがあります。ライトニングには流動性の制約がありますし、LiquidやFedimintは分散性が十分とは言えず、一定程度のトラストが不可避です。利用するか否かを判断する際は、こうしたデメリットをメリットと天秤にかける必要があります。レイヤー2の最新提案Arkを提唱したBurak氏も、Arkがオンチェーンや他のレイヤー2の特性をいくつか犠牲にしていると述べています。
ハイパービットコイン化が実現した世界では、利用者は複数のレイヤー2プロトコルを用途に合わせて使い分けることになるでしょう。要は適材適所です。
相互運用性の改善
レイヤー2プロトコルを評価する際に見落とされがちな観点として、他のレイヤー2プロトコルとの相互運用性があります。複数のプロトコルをシームレスに活用できる環境を整備することは、より健全かつ堅牢な金融機能の実現、使い勝手の向上につながります。どちらもビットコインのマスアダプションには不可欠です。例えば、Liquid上でライトニングネットワークを利用できれば、プライバシーの強化、流動性の改善、手数料の引き下げが可能です。 (その他の利点については後述します。)
Liquidとライトニングは、それぞれ独立して稼働するネットワークですが、相互補完的であり、相互運用性も高いです。両者を組み合わせることで、ライトニングチャネルを安価にリバランスしたい時やビットコインを少額ずつ積立預金したい場合に利用できる安全な選択肢を提供できます。ベースレイヤーの送金手数料が高騰している際には特に有用です。
Liquidが利用するオープンソースのコードベースであるElementsは、Bitcoin Coreとの差異を最小化するよう設計されています。これには、セキュリティ面でのメリット (Bitcoin Coreのバグ修正やパフォーマンス改善を適用できる) だけでなく、ビットコインと機能性が非常に近い他のレイヤー2プロトコルとの相互運用性が高まるというメリットもあります。
ライトニングネットワークをレイヤー2の接続ハブに
ライトニングネットワークは、ペイメントチャネルが形成するネットワークです。ペイメントチャネルは、ビットコインの未使用トランザクション出力 (UTXO) とライトニングのハッシュタイムロックコントラクト (HTLCs) という技術を使って構築されます。もう少し具体的に言うと、UTXOモデルではコインの使用条件を設定できるため、トランザクションにハッシュパズルと時間制限を条件として記述することで、コインがライトニングネットワーク上を安全に転送される仕組みです。
ライトニングを支えるUTXOモデルは、Liquidにも採用されています。したがって、ライトニングのHTLCは、ビットコインと同様にLiquid Bitcoin (L-BTC) も扱うことができます。すなわち、Liquid上にライトニングネットワークを形成することができます。もちろん、Liquid上のライトニングとビットコイン上のライトニングは別物です。Liquid上のライトニングは、Liquidの特徴 (秘匿トランザクション、決定論的ブロックなど) をすべて引き継ぎます。ビットコインとLiquidの両方にライトニングネットワークを構築すれば、2つのライトニングネットワークをブリッジして、クロスプラットフォームの相互運用性を提供できます。この場合も、HTLCが送金の安全性をエンドツーエンドで担保します。注意点としては、異なるアセットにまたがる送金のブリッジを行うノードが交換レートを指定できることです。ただし、ペグされているBTCとL-BTCには影響しません。ライトニングは分散性が高く、すでに広く使われており、UTXOベースの技術と互換性があります。そのため、ライトニングは異なるレイヤー2プロトコルをつなぐ結合組織となり得ます。新しいプロトコルが既存プロトコルにブリッジするための主要ハブとしてライトニングが機能すれば、過去に多くのプロトコルが直面したアダプションをめぐるニワトリとタマゴ問題を解決できるかもしれません。大手取引所によるライトニング対応や、仮想通貨スワップ業者によるLiquid対応が進行中の今、両方のプロトコルを活用するためのハードルを下げる上でも、ライトニングの接続ハブとしての可能性に期待したいです。
ライトニングとLiquidをつないで手数料を大幅削減
今年の5月初旬、トランザクションの急増を受け、オンチェーンの送金手数料が直近2年間の最高水準に達しました。これはバイナンスやコインベースのような大手取引所に影響を与えただけでなく、Muunなど一部のライトニング対応ウォレットが一時的に利用できなくなる事態に発展しました。この1週間におよんだ手数料の高騰により、流動性調整にオンチェーントランザクションが必須なライトニングをはじめとするスケーリングソリューションの、オンチェーン依存度を下げる改善が急務であることが明らかになりました。また、オンチェーンの手数料の高騰だけでなく変動の影響を受けにくくするため、レイヤー2テクノロジー同士を組み合わせて使う利点が認識されました。
オンチェーン手数料の高騰を受けて、新たにローンチされたプロダクトの1つに、Boltzが提供するLiquidとのサブマリンスワップでライトニングチャネルの流動性を調整できるサービスがあります。ライトニングチャネルの新規開設にはオンチェーントランザクションが必須ですし、チャネルの流動性追加にオンチェーントランザクションを利用する人も多いです。オンチェーン手数料が高い時は、こうしたコストがかさんでしまいます。オンチェーンの代わりに、Liquidサイドチェーンの流動性を活用すれば、メモリープールの混み具合を気にすることなく、ライトニングチャネルをリバランスできます。もちろん、トラストレスなスワップなので、ノンカストディアルに利用できます。
オンチェーン手数料高騰時にLiquidスワップを利用することで、手数料を99%以上節約することができます。Boltzは今後、L-BTC <> BTCのチェーン間アトミックスワップを用いて史上初のトラストレスなペグアウトの実現を目指し、Liquid対応をますます充実させる計画です。
BoltzがLiquidを統合した理由はこちらのブログ記事で説明されています。
Lightning Channel Rebalancing with Liquid Bitcoin
流動性の管理法としては、セルフホスト式のリバランスプロトコルであるPeerSwapを使うという選択肢もあります。ライトニングノードを運用していれば、BTCやL-BTCとのアトミックスワップでピアと直接チャネルをリバランスできます。コーディネーターとして第三者が関与しないため、手数料が大幅に節約できます。大規模ノードよりもコスト面で不利な小規模ノードには強い味方です。PeerSwapは現在、CLNあるいはLNDを実行するノードで利用できます。
Liquidとライトニングの併用でできることは、ライトニングチャネルの流動性調整だけではありません。Lightning <> Liquidのスワップで (謙虚に) ビットコイン貯金するユーザーもいます。まず、StrikeやCash Appなど安価に法定通貨をビットコインに交換できるサービスを利用して、ライトニング上のビットコイン(LN-BTC)を入手します。次に、Boltz、SideShift、Classic CoinOなどのLightningからLiquidへとスワップするサービスを利用してL-BTCを入手します。L-BTCを中期的な保有媒体として利用しているようです。LN-BTCではなく、あえてL-BTCで保有する理由はなんでしょう?ライトニングと異なり、Liquid上のアセットはオフラインのコールドストレージ、例えばJadeなどのハードウェアウォレットで自己管理できるからです。長期保有にはライトニングより、Liquidが適しています。このように、レイヤー2ソリューションの利用にあたっては、目的に合わせて最適なものを選ぶことが重要です。
ビットコイン・スーパーアプリの登場
すでに自社のアプリケーションにスワップ機能を追加したり、複数のプロトコルに対応することで、レイヤー2の使い勝手の向上に取り組んでいる開発者もいます。
弊社の例では、Blockstream Greenの開発チームがGreenlightを使って、ノンカストディアルなライトニングウォレット機能を追加する最終段階に入っています。まもなく、オンチェーン、Liquid、そしてライトニング上の資産をすべて1つのアプリで管理できるようになります。Green、SideSwap、そしてAQUAの近日リリースされるバージョンでは、BoltzのAPIを介して、アプリ内でLightning <> Liquidのスワップを実行できます。
ビットコイン・スーパーアプリとしてリリースされたWallbyは、オンチェーン、Liquid、そしてRootstockに対応しており、将来的にはライトニングとRGBへの対応も予定しています。対応プロトコルの充実だけでなく、Wallbyの開発チームは機能の充実にも力を入れています。例えば、自動マーケットメイカー (AMM) の流動性プールにビットコインや他のデジタル資産を追加して利回りを得る機能がすでに実用化されており、P2Pのデジタル資産の貸し借りやクロスチェーンスワップの機能も将来搭載される予定です。
このようなビットコイン・スーパーアプリの登場や、アプリ内スワップの実現は、(ミームになるほど) 使い勝手の悪さで有名なビットコイン関連アプリの開発者が、UX改善に本腰を入れ始めたことを示す良い兆候です。この変化と、ビットコインの「共通言語」としてのライトニングの成熟は、今後のレイヤー2の相互運用性の改善やマスアダプションに向けた強力な布石となるでしょう。各レイヤー2プロトコルは、ハイパービットコイン化された世界で、それぞれの特徴を活かして独自のポジションを確立するでしょう。そして、それらが形成するセカンドレイヤーは、プロトコル単独よりも、ずっとパワフルなものになるでしょう。