Blockstream Researchの取り組み
Blockstream Research

Blockstream Researchの取り組み

Kiara Bickers
Kiara Bickers

ビットコイン黎明期には、リサーチと言っても、技術者がbitcointalk.orgなどの掲示板で行う単発のものが主でした。その後、当初ビットコインを無視していた暗号学など関連分野の学者が徐々にビットコイン技術者に歩み寄り、学界と急成長する暗号通貨業界の距離が縮まり、業界は成長しました。

Blockstreamはビットコインを基盤とした新興経済のインフラ構築に尽力しています。そんな弊社のイノベーション戦略の中核的役割を担うのがリサーチチームです。チームの強みは、複雑な問題を新規的、進歩的かつ保守的な数学的アプローチで解決することです。斬新なアイデアの研究開発に積極的に取り組むことで、今後もビットコインエコシステムの発展を促す技術の進化をリードします。

プロダクト開発とリサーチの関係

ブロックチェーンの技術スタックは、プロダクトとプラットフォームの2階層に分けられます。

  1. プロダクトは主にエンドユーザーが触れるもの (コイン、ウォレット、取引所、スマートコントラクト) 。
  2. プラットフォームは主に開発者が触れるもの (スクリプト言語、ブロックチェーン、署名スキーム) 。

プロダクト開発は研究成果を市場で受け入れられるソリューションに昇華させること、一方のリサーチはより長期スパンで技術革新を推進するものです。堅牢なプラットフォームの開発には入念な設計と実装が求められるため、プロダクト開発よりもリサーチの一環として捉えるのが妥当です。

弊社の研究分野

弊社のリサーチチームは、ビットコインエコシステムの中核をなすプラットフォームの開発、改善に注力しています。複雑な問題に積極的に取り組み、解決することで、プラットフォームの可能性を拡げています。技術スタックの基礎であるプラットフォームの改善が、数ヶ月後、数年後のワクワクするようなプロダクトの開発につながると確信しています。

スクリプト言語

  • Simplicity - Bitcoin Scriptの代替として堅牢性を高めたプログラミング言語。
  • Miniscript - Bitcoin Scriptに構造を持たせて記述するより安全な言語で、静的分析・スクリプトの合体・Generic Signingなどを実現。
  • Elements Script - Bitcoin Scriptを拡張した言語で、最終的にビットコインにも導入されたCSVや、試験運用されているコベナンツを実現する新たなオペコードを含む。

デジタル署名・シュノア署名

  • Cross Input Signature Aggregation (CISA/XISA) - 同一トランザクションの複数の入力が単一の署名を共有できるようにする機能。トランザクションサイズを削減し、ビットコインの送金効率を改善する。
  • MuSig2 - ビットコインのマルチシグトランザクションの効率化およびプライバシ改善を目的に設計されたプロトコル。MuSig2では“n-of-n”における1つの署名を複数の署名者がセミ・インタラクティブに生成することができるので、マルチシグトランザクションを作成するユーザーのプライバシーが大幅に向上する。
  • ROAST - “t-of-n”の署名を要するLiquidのようなフェデレーションに対するDoS攻撃を回避するためのシンプルなプロトコル。

オフチェーンプロトコル

  • Scriptless Scripts - シュノア署名を使ってスマートコントラクトをオフチェーンで実行し、セキュリティ、プライバシー、スケーラビリティを改善する。
  • Fedimint - フェデレーション型のe-cashプロトコル。複数の署名者がユーザーからビットコインの入出金を処理しe-cash証明書を発行する。ユーザーはフェデレーション内で高いプライバシーを得られる。
  • Codex32 - サイドチャネル攻撃やバグ、その他のコンピューター関連の脆弱性による秘密鍵の漏洩を懸念するユーザー向けに、コンピュータを使用せずにBIP32シードの生成、チェックサム計算、分割、合成を可能にするプロジェクト。

オープンソース開発

  • Bitcoin Core - ビットコインプロトコルのリファレンス実装をオープンソース開発するプロジェクト。
  • rust-Bitcoin - ビットコイン関連アプリ開発者向けのRustライブラリ群。
  • libsecp256k1 - Bitcoin Coreで使用される楕円曲線暗号を扱う効率的かつ安全なライブラリ。対象曲線はsecp256k1に限定され、OpenSSLなどの代替品より安全性、実行速度、信頼性が勝る。
  • libsecp256k1-zkp - 秘匿アセットやMuSig2などの先進的かつ実験的機能を利用できるlibsecp256k1のフォーク。

リサーチチーム

2015年以来、弊社リサーチチームは将来のプロジェクトが利用できる技術基盤の構築に努めてきました。この間、チームは10人もの経験豊富な研究者、開発者を抱えるまでに成長しました。(以下敬称略)

Andrew Poelstra, Director of Research

  • テキサス大学オースティン校の情報科学研究者および数学者で、2011年にビットコインコミュニティに参加して以来、Rust言語による初のビットコイン実装のほか、libsecp256k1の開発に貢献しました。Bulletproofs、秘匿アセット、Miniscript、Taprootの共同考案者でもあります。

Andrew Chow, Core Tech Engineer

  • BIP 174 (Partially Signed Bitcoin Transaction Format: PSBT)の実装、Bitcoin CoreへのNative Descriptor Wallets導入などオープンソースコミュニティでの貢献で知られるBitcoin Core開発者です。

Dr. Russell O'Connor, Core Tech Engineer

  • ナイメーヘン・ラドバウド大学で理学博士号を取得。数学と情報科学のバックグラウンドを活かしてCore Tech Engineerとして活躍しています。”Simplicity: A New Language for Blockchains”の著者としても有名です。5年前に彼が発表したSimplicityは、今年中のリリースを予定しています。

Christian Lewe, Core Tech Engineer

  • ドレスデン工科大学で情報科学修士号を取得。2022年にリサーチチームに参画直後からSimplicityの主力コントリビューターとして活躍するかたわら、Miniscriptのメンテナンスにも貢献しています。今年から、将来Simplicityにとって重要となるフォーマル検証とゼロ知識証明の2分野に注力しています。

Sanket Kanjalkar, Cryptographic Engineer

  • イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 (UIUC) で情報科学修士号を取得。Miniscriptの共同考案者、Simplicityの主要貢献者、26以上の暗号通貨が抱えるリソース消費に関する脆弱性を開示した"I Can't Believe It's Not Stake!"の著者です。

Jonas Nick, Team Lead, Cryptography

  • スイス連邦工科大学の情報科学修士号を保有する暗号学の研究開発者で、2022年に暗号学リサーチチームのトップに就任しました。libsecp256k1のメンテナーであり、BIP 341 (Taproot)、BIP 340 (シュノア署名)、BIP MuSig2の共著者でもあります。セキュリティ重視のビットコインフルノードを簡単にインストールできるNixパッケージとNixOSモジュールから成るnix-bitcoinの作成者としても知られてます。

Dr. Tim Ruffing, Cryptographic Engineer

  • ザールラント大学で暗号学の見地から暗号通貨を研究して博士号を取得した暗号学者、開発者です。libsecp256k1のメンテナーであり、BIP 340 (シュノア署名)、BIP 324 (P2P通信の暗号化)、BIP MuSig2の共著者でもあります。他にもビットコイン関連論文を複数執筆し、最近では“MuSig2: Simple Two-Round Schnorr Multi-signatures” (2021年)と“ROAST: Robust Asynchronous Schnorr Threshold Signatures” (2022)年でマルチパーティ間のシュノア署名の改善方法を提案しました。

Liam Eagen, Cryptographic Engineer

  • テキサス大学オースティン校出身で最近リサーチチームに加わりました。現在はレンジプルーフを短縮して秘匿アセットを効率化する新種のゼロ知識証明、Bulletproofs++を開発しています。

Eric Sirion, Sponsored Researcher

  • Fedimintの考案者かつリードメンテナーです。他のチームメンバー同様、分散システム、コンピューターネットワーク、プライバシー技術の分野にフォーカスする情報科学研究者でありサイファーパンクです。

Kiara Bickers, Research Communicator

  • 独学の開発者で、2022年にチームに参画しました。ビットコインという複雑なシステムを非技術者向けに分かりやすく解説した本、Bitcoin Clarityの著者です。リサーチコミュニケーターとしての彼女の使命は、チームの研究成果をアカデミアの枠を超えて、より多くのビットコイン関連技術やプロダクトの開発者に提供、利用してもらうことです。

Blockstream Researchの最新情報

技術に関心を持つコミュニティメンバーとの連携を強化するために、Blockstream Researchというブランドを新規に立ち上げました。私たちがこれまで進めてきた研究の多くで実用化の目処がついてきており、その成果を広範な開発者に届け、利用を促す新たな局面を迎えています。今後は研究の進捗や成果について、より頻繁に報告、共有していく所存です。Blockstream Researchの最新情報を得るには、公式ツイッター@blksresearchおよびGitHubをぜひフォローしてください。

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